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日皮協について

事務局長 挨拶

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日本産業皮膚衛生協会 事務局長 河合 淳 日皮協の設立時経緯ですが、1970年頃に衣料公害という言葉も出現し化繊業界に統一した皮膚安全性試験が必要となり「河合法」を採択して1971年に日本産業皮膚衛生協会が誕生しました。「河合法」の開発者でもある河合享三は、1977年日本医師会より最高優功賞・1981年に「繊維製品の安全な検定法(河合法)」の開発により科学技術庁長官賞を受賞しました。
協会の初代理事長の池田佐喜男様(旭化成工業株式会社繊維加工研究所所長)の大変な尽力もあり、協会の基盤を固めていただき繊維業界だけでなく化粧品業界からも協会の会員が増えて現在に至っています。
協会の歴史については、創立50周年記念誌を作成していますので、そちらに詳しく記載しています。
日皮協の一番の特徴は異業種の集まりであり、様々な業界の方に会員となっていただいています。繊維・繊維処理・化粧品・絆創膏・化学原料・製薬・洗剤・染織・製紙業界と多岐にわたる業界の方がおられます。
日皮協での研修会や講演会などに参加いただくと異業種の交流によって机上では得られない知識や見識が得られます。
受託試験についても繊維関連の商品だけでなく化粧品や雑貨など肌に触れるものについて幅広く試験を行っています。安全性の試験だけでなく有用性の試験や実際に商品を着用して肌の観察を行う実着用試験も多く実施しています。
試験品が様々な業界から依頼されてくるため、業界によって試験法も異なります。
繊維業界は、保湿繊維の評価や紫外線防御の試験などヒトを対象とせずに試験を行うこともあり、化粧品の評価法と比べて改良の余地を感じており、この場をお借りしていくつかの試験を具体的に比較したいと思います。

  • 保湿試験
    繊維業界で保湿生地を評価する試験法に繊維がどれだけ吸水(吸湿)しているかを加工布と未加工布と比較して評価を行ったり、絶乾→高温多湿(40℃90%RHなど)→標準状態(20℃65%RH)の条件で吸湿率の変化を測定したりする方法が採用されています。この場合繊維製品の保湿は評価されますが、実際に着用した人の肌の保湿性は評価されていません。
    化粧品業界の保湿試験は、試験品を実際の使用方法で皮膚に塗布し、試験前及び使用4週間後の試験品塗布部位とブランク部位の皮膚の角層水分量を測定してその結果を統計解析します。有意な差があれば保湿効果がある化粧品と謳う事ができます。被験者の人数も統計解析を行うので少なくても10人以上で行うことが多いです。
  • 紫外線防御
    繊維製品の紫外線防御測定としては、分光光度計や専用の測定器を用いて、生地に紫外線を照射し、透過した紫外線量を測定する方法で遮蔽率(%)を求めたり、UPF(紫外線防護係数:SPFのような考え方の数値。ただし、「透過率のデータ」、「波長の太陽光からの放射強度・肌へのダメージ係数」から計算で算出します。)を求めたりします。規格や基準について、長年、「アパレル製品等品質性能対策協議会ガイドライン」(遮蔽率で評価)やオーストラリア/ニュージーランド規格 AS/NZS4399(UPF)が用いられてきましたが、2019年に「JIS L1925」でJIS化されました。
    繊維製品となると実際に着用すれば生地が伸びたりして編み目が広がり物理的に透過する紫外線量が多くなることが予想されるのでこの辺りも考慮する必要があります。
    化粧品での評価法は、実際に皮膚に試験品を2mg/㎠あるいは 2μL//㎠の量を20㎠以上の面積に塗布して、定められた光源のソーラーシュミレータを用い、波長290〜320nmの太陽光に近似した光源を照射して、試験品塗布部位と無塗布部位とを比較してS P F値を求めています。UVB だけでなくUVAについてもPA+〜PA++++の表示によって分類しています。

このように、業界が異なると同じ目的の試験であっても方法が異なります。化粧品業界は、人で使用するため、ヒトでの評価が中心となっています。客間的に考えれば化粧品業界の試験法の方が実際の状況を想定して試験を行っているように思います。

日皮協では、研究会を作り繊維業界の研究会を第1分科会・化粧品業界を第2分科会・絆創膏業界を第3分科会として、各分科会に予算を割り振って検討を行っています。
最近の第1分科会では、繊維製品の保湿性評価法の検討として、人に実際に加工布と未加工布を4週間着用してもらい、着用部位の皮膚水分量や水分蒸散量を測定して、皮膚が保湿されたかどうかを検討し、評価方法を貴学会で発表させていただきました。
最近は、繊維製品の抗酸化をテーマとして検討を開始いたしました。

安全性について、今までに経験してきた中でいくつか世の中を騒がせた繊維製品の事故例について紹介いたします。

1984年にナイロンタオル黒皮症が発生しました。これは、単純に機械刺激であり、ナイロンタオルで同じ部位を長期間擦ったことによって色素沈着が生じたものでした。
1987年に黄色のサマーセーターによるかぶれが発生して消費者が入院した大きな事故がありました。染色過程でデザイナーの要求する色にするために従来使用していない薬剤を使用したことで発生したと言われています。
最近では、2016年に茅ヶ崎海岸でスタンドアップパドルボードの国際大会で配布されたTシャツの着用により上半身のかぶれ(火傷)症状を訴える人が多く発症した事例です。この事故も、Tシャツにインクジェットプリンターで印刷する時に色を鮮やかにするために前処理剤を変更し、その薬剤が残留して発症したと言われています。この事故の後、どのようにして調べてこられたのかはわかりませんが、神奈川県警と茅ヶ崎署の刑事の方が日皮協に見解を聞かせてほしいと来られ、数時間お話をしました。刑事事件になったようです。
化粧品業界でも、医薬部外品の化粧品2種が事故を起こし、新聞でも大きく取り扱われました。洗顔石鹸によって即時型アレルギーが発症した事例と美白化粧品によって白斑を引き起こした事例です。
石鹸は、泡立ちを長く保持するために従来化粧品では使用されていなかった加水分解コムギが原因でした。美白化粧品は、美白作用がありましたが、化粧品のシリーズに配合したことで重ね塗りもあり、安全性試験や使用試験の条件よりも使用量が多くなり、白斑に至ってしまったようです。

このように繊維製品も化粧品も商品の差別化のために効果面を期待して、安全性や実仕様の条件を考慮しなかったことが原因の人的な事故と言えます。
いくら効果が期待できても、医薬品ではないので副作用があってはなりません。
是非、今後の商品開発時は安全性についても十分検討の上、発売していただきたいと思います。
日皮協では、開発の段階からの相談も受けており、安全性・有用性の両方の面からの評価のお手伝いをさせていただいています。
協会設立から40年は安全性の受託試験が中心でしたが、最近の10年間は、有用性試験も多く受託しており、これからは両面に通じて評価を行っていきたいと考えています。
特に使用試験は商品ごとに評価法も検討し、皮膚科専門医のアドバイスも受けながら試験法を決めています。

日本産業皮膚衛生協会 事務局長 河合 淳